M4 「本気」のグローバル化に必須の条件


 

事業をグローバル化するのは容易ではない。海外で戦える製品力、コスト競争力、プロジェクトマネジメント力、拠点毎の生産能力など、多くの点で現状の再考と再構築を迫られるだろう。しかし日本企業には、これらと並行してどうしても整えるべき基本条件がもう一つある。人材育成システムだ。

国内ビジネスに慣れ切った社員を、いきなり海外に差し向けても上手く行く保証はない。特に日本の社会インフラ関連事業には、世界とかけ離れたビジネス慣行も多い。事業領域にもよるが、日本で一般的な「契約の気軽さ」、「キャッシュフローへの無頓着さ」、「『お客様は神様』スタイル」などを前提に海外顧客と相対すると、痛い目に会うことになる。

その点から、海外事業には国内で成功体験を持つ人材を投入するより、少数の中堅を核に若手社員を主体にグローバルビジネススキルを一からたたき込み、実地で体得させ、経験知を積み上げていく方がグローバル人材の育ちも早く、成功の確度も高いと思われる。これには効果的な人材育成システムが鍵となる。

さらに、海外で優秀な人材を確保しようと思えば、彼らが潜在能力を開花し、応分に活躍できる教育とキャリア・ディベロプメント・プログラム(CDP)が欠かせない。先進国に限らず東南アジアの国々を含め、優秀でやる気がある人材ほど、どの会社なら自分が一番力を伸ばせるかが、就活での(報酬以上に)重要な決め手とされている。

「せっかく育てても、すぐ辞めるから・・」と、育成そのものを躊躇するのは論外だ。外資系企業も転職による人材の歩留まりは織り込み済みだ。その上で、社員が力をつけても辞めない、あるいは、いったん辞めてもまた戻ってくるような会社づくりを目指している。

海外の競合他社が、世界的に著名なビジネススクールに研修を依頼したり、グローバルキャリアを計画的に積ませたりする一方で、日本企業がOJTに名を借りた薄っぺらな育成システムしか持っていなければ、残念だが、世界から有能な人材は集まらない。事業のグローバル化は、グローバル標準の人材育成システムとセットで成し得ることを心したい。

その上で「本気」でグローバル人材を育てることだ。そのためには、将来にわたってターゲット案件を複数特定し、徐々にプロジェクトの難易度を上げていく。単発的、あるいは表出する案件ベースでプロジェクトを取るだけでは、肚(はら)のすわったグローバル事業展開力は身につかない。初期に多少の失敗はあっても、その経験を次のプロジェクトの成功の糧とする継続した取り組みが大事だ。

日本企業の人材育成は、総じて教育プログラムとキャリア形成とが連動しておらず、かける時間とエネルギーが多国籍企業と比べると圧倒的に少ない。社員が成長する、すなわち、ひとり一人が実務能力を上げ、新たに出来ることが増えることによって、会社の事業運営力は強化される。会社の成長の源泉は、社員ひとり一人の成長以外の何物でもない。

異国の地でビジネスを切り拓いて進むグローバル化のプロセスには、社員の弛(たゆ)まない成長を促す人材育成システムが、どうしても必要だ。


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