M3 稼いだキャッシュの使い道は?


 
職場では、売上を上げること、経費を削減すること、利益を出すことに関心が集まる。しかし、そうやって稼いだ利益、すなわちキャッシュ(お金)の使い道を考えている人は意外に少ない。これは経営トップが考えることで、管理職や一般社員には関りがないと思ってはいないだろうか。

事業は単年度毎に業績(利益)を上げて、決算書を締めて終わりではない。稼いだキャッシュの使い道次第で、企業は存続と発展の成否が分かれる。当然、会社で働く全ての人に関わる

企業にとって、稼いだキャッシュの使い道は3通り、①「事業に投資する」、②「負債を返済する」、③「株主に還元する」だ。(「社員に還元する」を上げる人もいるかもしれないが、ここでいう稼いだキャッシュとは、社員への報酬を含め事業にかかわる全ての費用を支払った後の、利益剰余金に伴うキャッシュのことだ。)

3通りの使い道には、明確な優先順位がある。もし、自己資本に対して過剰な借入金があれば、先ず「負債の返済」を優先する。そうでない(平時の)場合なら、「事業への投資」が最優先となる。「株主への還元」は、通常、この2つを考慮した上で対処する。継続してキャッシュを生み出す事業基盤の構築が、株主への累積での還元も大きくするからだ。

企業が事業活動によって社会価値を高めて行くには、稼いだキャッシュを継続的に事業に投資することが欠かせない。特に技術革新が著しい時代にあっては、新製品の「賞味期限」も、製品事業そのものの「ライフサイクル」も短くなる。将来の事業の柱となるビジネスの芽の見極めと機敏な投資が鍵だ。

しかし今の日本の企業経営では、社会インフラ事業を始め多くの分野で、新たな事業投資が停滞している。技術革新が進む一方で、成熟した社会にあって価値のある潜在需要が見出せず、「自社の将来像」が描き切れない会社が多い。因みに、DX(デジタルトランスフォーメーション)も叫ばれて久しいが、これをもって明確な将来の事業像を示せている会社は未だに少ないのが実態だ。

「自社の将来像」を模索し、新規ビジネスの芽を育むのは、決して経営トップだけの仕事ではない。M&Aなどの戦略的な取組みはトップ主導で行うことも多いが、新規ビジネスの種の多くは、顧客や競合との接点の営業部門や、要素技術や新製品の開発に取組む技術部門など、事業活動の現場から芽生える。

「自社の将来像」は、遠い空から降って来るのではなく、事業現場の底に埋もれていて、掘り出されるのを待っているとも言える。事業現場にある者こそ、その可能性への感度を高め、「事業への投資」(=キャッシュの使い道)を真剣に考える必要がある。当然ながら、現場からのアイディアや提言を前広に受け止める経営側のスタンスも必須要件だ。

昨今であれば、既存事業の利益確保に終始し新規事業への投資に躊躇していれば、ダブついたキャッシュに「モノ言う株主」が短期的な株主還元を求めてくるだろう。

企業経営は、財(お金)を貯め込むことが目的で利益を上げるわけではない。せっかく苦労して稼いだキャッシュ、自社事業の継続的な発展とそれに関わる人々の幸福のためには、経営トップは勿論、実務部隊にも、その使い道に知恵を絞る責務がある。


(関連留考録)M3 「モノ言う株主」とは何者なのか?