M6 ある産婦人科医のベンチャースピリットに学ぶ

 


「産声が上がった瞬間、みんなが笑顔になる歓喜の空間」と「出産に際して母子2つの命と向き合うやりがい」 が、産婦人科医を志した動機とのことだ。医師であり、現在、病児保育の利用促進を支援するベンチャービジネスの立ち上げにまい進する CI Inc. 代表の園田正樹さん。彼の起業動機から、これからの社会で目指すべき職業人のあり方が見えてくる。

園田さんが推進を支援する「病児保育」とは、子どもが風邪などの急な病気になった時、一時的に保育と医療の両方を提供する社会セイフティーネットのことだ。通常、医療機関や保育園に併設されており、現在このような施設が日本全国に 2,500 か所ほどある。一般の保育園では病気の子どもはあずかってくれないので、共稼ぎ夫婦やシングルマザー / ファーザーにとっては大きな助けとなる。

しかし、一般に「病児保育」の認知度は低く、全国の平均利用率はコロナ前で約30%。この2年間は10%台までに落ち込んでいる。加えて施設利用には、複数の書類への記入や空き状況の確認などのため、施設とのやり取りが複数回発生する。出勤前の忙しい時間帯での利用には、手続きの簡素化と効率化が望まれる。

そこで園田さんが導入・推進するのが、SNSを使った予約システム「あずかるこちゃん」*。スマホでラインやウェブからいつでも予約ができ、事前に空き状況も分かる。施設の場所や空き状況が地図上やリストで確認でき、自宅から近い順に表示してくれるので極めて便利だ。

施設側もTEL応対の必要がなくなり、キャンセルへの対応もスムーズになる。その分、保育看護に集中できる。これまでの導入例では、利用率が2倍近くに跳ね上がった施設もある。「あずかるこちゃん」が、保育医療へのICT活用により「病児保育」の社会価値を大きく引き上げた。

「あずかるこちゃん」の現時点での導入は100施設余り。園田さんはこの数をさらに増やして全国に広く行きわたらせると共に、次のステップとして、更なる母子支援のため、現在市区町村が取組んでいる「産後ケア事業」の促進にも意欲を燃やす。

在学中の博士課程を休学し、経済的なリスクを背負ってまでもやりたかった、このベンチャーの立ち上げには、今の日本が抱える社会課題に真っ向から立ち向かう、園田さんの熱い思いがある。

「社会の真ん中に子どもがいて、子育てする保護者も手を差し延べてもらえる。子どもを産んでも大丈夫、一人で頑張らなくても大丈夫。安心して毎日笑顔で生活ができる。そんな社会になってほしい。そして自分もそれに貢献したい。」

普通の会社勤めではこのような使命感を持つのは難しい、と思うだろうか。必ずしもそうとは言えない。現在の自分の仕事と社会とのつながりを、もう一度振り返って欲しい。

会社の事業は社会価値と結びついている。それにかかわる一人ひとりの仕事もその価値創出の大事な要素だ。誰もが間違いなくこれに貢献している。仕事の意義と動機を問い続けることは、ベンチャービジネスに限らず、全ての職業人生にとって欠かせないことだ。

「自分にとって心地よいこと」(=好きなこと)に「強い動機」(=やりがい)を重ね合わせ、「人を思う心」(=社会貢献)で包み込むと、人生100年時代を生き抜く職業生活のあり方が見えてくる。園田さんのベンチャースピリットが、そのことを克明に物語っている。


(関連情報)
園田正樹さんに関する情報サイト
*あずかるこちゃん ネット予約サイト

(関連留考録)
M4 「お金」と「時間」と「仕事」の関係