日本には約400万社の企業があり、その内大企業と呼ばれる会社はわずかに0.3%。残り99.7%は中小企業である。さらに中小企業の約9割が同族(ファミリー)企業と言われ、日本企業の全売上高の5割ほどを占めると推定される。ファミリー企業が日本経済に及ぼす影響は大きい。
しかしファミリー企業の経営には、同族ゆえの強さと共に危うさが伴う。これについて学び考えることは、ファミリー企業だけでなく、企業経営全般に重要な示唆を与えてくれる。ファミリー経営の背後にある人間模様が、企業社会の本質を映し出すからだ。今回はファミリー企業の「事業継承」問題を考えたい。
「売り家と唐様(からよう)で書く三代目」という川柳がある。裕福な家庭環境に育った三代目は、習字などの文化的素養を身につける一方、経営の力量や心根(こころね)からは遠いことが多い。創業者、二代目と続いた家業をつぶしがちだ。
この川柳は、このような背景を示唆して、家業をつぶした三代目は家屋に貼る紙の「売り家」の文字も洒落た唐様で書く・・といった含みだ。もちろん、全てを指しているわけではない。私の知人にも立派に事業を継承し、さらに発展させている三代目は多い。とは言え、この川柳はファミリー(同族)経営の代々に渡る継承の難しさを端的に伝えている。
特にカリスマ的な創業者が起こした会社の事業継承は、何かと波乱含みだ。川柳が伝えるように、一族から代々事業経営に長けた人材が出る保証はない。また、時代の変化に対応できない創業者が、周囲の意に反して長く経営の座に留まるケースもあり得る。
親子間での経営継承には、親と子の双方に乗り越えるべき課題が存在する。子には「家業の社会的役割と意義」を認識し、「経営に携わる意志と覚悟」が求められる。その上で、実践と並行して包括的な経営トレーニングを徹底して積むことだ。
トレーニングは親からではなく、信頼できる第三者(機関)による方がいい。教育や育成には一定の距離感が必要だ。親はその存在だけで(良くも悪くも)十分に教育的だ。加えて、継承後も事業が発展するためには、子は親を思う強い気持ちとともに、親の代を乗り越えるだけの気概と力量を養う必要がある。
他方、親には、ある時点で「子に事業を委ねる覚悟」が要る。しかし、適切なタイミングでこれに踏みきれる親世代は少数派と言える。平均寿命が延びる中ではさらに難しい。経営から離れた後、親に「次の居場所」があることも大事だ。このタイミングにも第三者の適切な介在が助けになる。親子間だけの意思疎通では、感情が先走り、往々にして建設的な合意に至りにくいからだ。
ファミリー企業の経営継承は、親子ゆえに生身の人間同士の思惑が前面に出て、一筋縄ではいかないケースが多い。しかし、世代を超えて事業理念と社業存続の目的を共有できれば、ファミリー企業は強い。一人の経営者が経営権を担保して長期間指揮をとることで、事業運営に一貫性と安定感が出る。同時におおよそ30年毎に訪れる世代交代が、(波乱含みではあっても)時代の変化に呼応した企業変革のきっかけともなり得る。
ファミリー企業と比べると、大手企業のサラリーマン経営者の継承は極めて制度的だ。仕組化されているので継承自体が滞ることは稀だが、その分、後継者の育成を含め、次世代へタスキをつなぐことに情熱を注ぐ経営者が少ないのが実態だ。
人間社会は、それぞれの世代が自らの経験を次世代に伝え、次の時代を切り開く礎になることで健全に進化する。企業の形態や大小にかかわらず、経営リーダーは「継承の責務を全うしなければ、自らの任は完結しない」ことを重々心したい。
(関連留考録)M4 いまの仕事、誰にどう引き継ぎますか?
(推薦図書)星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書 日経BP刊
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