M4 ファミリー経営の危うさと強さに学ぶ(2)「経営」と「株主」


ファミリー経営の難しさは、親子間の事業継承だけではない。親族間の利害関係者(ステークホルダー)の人間模様の複雑さにもある。通常、ファミリー経営には、経営者、株主、親族の3つの属性(経、株、族のスリーサークル*)が関り、同一人物が2つ以上のサークルに入ることが多い。

各々のステークホルダーの経営理解力(リテラシー)、保有株式数、親族内での発言力に加え、性格やさまざまな思惑が絡み、これらが事業運営に大きな影響を及ぼす。実際に、次のようなことが起こり得る。

      先代は早めに子(経+株+族)に社長を譲ったが、先代を支えてきた古参の親族役員(経+株+族)が子に非協力的で、事業を上手くリードできない。

      先代が他界し、事業を熟知する親族外のNo.2(経)が社長に就いたが、それまで経営に全くタッチしてこなかった親族(株+族)が個人的な思惑から新社長を解任する。

      先代には複数の息子(経+株+族と株+族)がおり、先代の他界後、家業への関与と各人の思惑の違いから、兄弟間で株の相続と経営権をめぐって争いとなる。

      先代には息子がなく、娘婿(族)が社長を引き継いだが、経営者としての自覚と力量に乏しく、事業が立ち行かなくなる。

ファミリー経営のトラブルは、株主でもある親族間の争いが圧倒的に多い。特に、事業や経営に通じていない親族株主(たち)が、自分や自分の子の利得を優先し始めると泥沼の様相を呈する。親族間の利害調整に翻弄されれば、経営は本分である事業活動に集中できない。事業現場とかけ離れた世界(親族株主間)でのトラブルに、社員は無力感とやるせなさに包まれ、業績にも大きな影響が出る。

これを防ぐには、「社業は何のため、誰のために存在するか」を含めて事業理念を明確にし、社長と取締役の選任条件や任期、株の相続ルール、配当基準などにわたり、親族間で基本要綱を取り決めておく(明文化する)必要がある。また、定期的に親族に事業の現況や今後の方針などを伝えると共に、親族間の人間関係を健全に保つ努力も欠かせない。

ここで心すべきは、「事業は、経営と資本が『社会価値の創出』という『共通理念』に立って行う活動」という原則だ。これはファミリー企業に限らず、ベンチャー企業や上場企業を含め、全ての事業に当てはまるものだ。

株式市場によって資本と経営が分離している上場企業では、資本は資本の論理で動くとされる。資本が経営を「監視する(取締る)」ために取締役会が置かれるが、長年経営と取締役側の立場にある身からは、このセッティング(社会システム)はいま一つスッキリ肚に落ちない。前述の資本と経営の原則に立てば、経営者と取締役はもとより、株主にこそ、株所有者として事業に関与する適格性と事業が生み出す社会価値への本気度が問われるからだ。

近年、上場企業の株式を「モノ言う株主」(アクティビスト)と呼ばれるファンドが握り、短期的リターンを得るために巨額の自社株買いや、事業売却による利益の放出を迫るケースがある。ファンドが株主の立場から無秩序に自らの利得を優先すれば、ファミリー企業の場合と同様、健全な事業運営にはなり得ない。適格性に欠ける株主が経営を「取締る」ようなら、企業社会は成り立たない。この危険性を内在する現行の「株主資本主義」には、明らかに修正が必要だ。

企業経営にかかわる者が事業から利益配分を得るには、適切な仕組みと教育によって自らを制することが欠かせない。企業形態の如何にかかわらず、経営にかかわる全てのステークホルダーは重々心したい。


(関連留考録)M3 「モノ言う株主」とは何者なのか?
*(関連図書)ファミリービジネス経営論 ジャスティン・B・クレイグ、ケン・ムーア著 プレジデント社刊