M4 部下の成長のためにリーダーがココロすべき基本


「男子 三日会わざれば 刮目(かつもく)して見よ」とは、三国志演義での呉の武将・呂蒙の言だ。「志ある者は三日も会わなければ見違えるほど成長しているので、心して対峙せよ」との意であろう。

経営塾でも多くの塾生諸氏と接する中で、人間的な魅力が高く、これからも大きく成長するだろうと思える人に出会うことが一番嬉しい。男女を問わず、思考の幅が広く、考えにヘンなこだわりがない。学びに素直で、質問や意見を多く交わすのが特徴だ。

しかし一方で、これだけの資質に恵まれ、入社後この年月の経験があれば、自らの才をもっと大きく開花していてもいいだろう思える人も少なくない。日本の(特に大手企業の)職場には「磨かれざるダイヤモンドの原石」がゴロゴロしている。

人の成長には個人差が大きい。だが、個人の資質とともに大事な要素がもう一つある。環境である。人の潜在能力の開花には、それを促す場が必要だ。残念だが、今の日本の職場の多くは、人の成長を促す場としての力が弱いように感じる。

端的に言えば、自由闊達さに欠けることだ。何かモノを言うにも、周りの人間関係を必要以上に気にしがちだ。塾で行う、現状分析から重要課題を特定し解決案を経営層に提案するプロジェクトでも、上に対して「こんなことを言ってもいいのか?」と躊躇するメンバーが出てくることがある。現実直視とあるべき姿の追求が、組織がもつ「場の力」によって制限されるなら、事業は健全には発展しないだろう。


この打破のためにリーダーがやるべきことがある。①場の「心理的安全性」(
Psychological Safety)を高める、②人材育成スキルとマインドを意図的に鍛える、③自らも学び続け成長することだ。

    「心理的安全性」(Psychological Safety)が高い職場は、人間関係が建設的で、居心地がいい。決して生温いわけではない。例えば、これを心得ているトップが率いるベンチャー企業は、社員の目標達成意欲も職場への満足度も高くなる。大企業との違いは「過度な階級意識」の排除だ。フラットな人間関係が主体的な行動を促し、メンバーの成長も加速する。

    人材育成スキルとマインドの根底には、「相手の成長を信じ、その人が持つ可能性をつぶさない」信念が要る。大リーグで投打で活躍する大谷翔平選手誕生の陰には、彼の資質を信じ成長をサポートした栗山英樹監督の存在が欠かせない。スキルとともにこの種の育成マインドをもつには、リーダーが人間関係の中での自らの使命と役割を内省し、これにかかわる技量を意図的に養う必要がある。

    部下の成長を促す大前提は、リーダー自身が成長することだ。先ごろ、ある企業で行った経営トレーニングでは、50代の部長クラスの受講者が実に嬉々として参加しているのが印象的だった。それもそのはずで、トレーニングには今年67歳になる専務取締役も参加しており、この人の真摯な学習姿勢が全社員の学びと成長を後押ししていた。

「三日会わざれば 刮目して見るべき」人材の輩出には、三日間を過ごす場の設定が鍵を握る。人生で膨大な時間を費やす職場では、この設定の重要性は計り知れない。会社の成長は単に規模が拡大したり、売上や利益が大きくなることではない。「真の会社の成長とは、社員が成長すること」だ。

経営リーダーにとっては、人(社員)が持つ潜在能力の開花が、製品やサービスによる価値の創出と同等に重要な社会使命であることを重々ココロしたい。


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