M10 スマートシティ先進都市バルセロナの決断

 

バルセロナと言えば、ガウディのサグラダファミリアやサッカーのFCバルセロナを想い浮かべる人が多いと思う。しかしこの都市には、今、世界の先端を行く「スマートシティ」としてのもう一つの顔がある。

スマートシティ化とは、最新テクノロジーも駆使して、人間が本来心地よいと感じる街づくりのことだ。生活の利便性だけでなく、健康にも環境にも優れたゆとりある住空間の創造が目標だ。日本でトヨタが主導するウーブン・シティは更地から近未来都市を構想する試みだが、既存の社会インフラからのスマートシティ化も世界各地で模索されている。中でもバルセロナはその先端を行くものとして注目されている。その実態を知るため、先ごろ現地を訪れた。

バルセロナは人口160万人のスペイン第2の都市。市全体を一気にスマートシティ化するにはサイズが大きく、加えて、地区毎に住環境や住民特性も異なることから、計画では全市を503のブロックに分けて対応している。一つのブロックの大きさはおおよそ400メートル四方。実際は道路で区分されるので真四角ではないが、このサイズ感が肝だ。

モデルブロックの1つ、セント・アントニー・スーパーブロックでは、ブロック内は人間が自分の足(徒歩か自転車)で移動することを基本とし、ブロック間をつなぐメイン道路以外の道路からは「自動車の全面排除」を決定。万一車が進入する際はスピードは時速10km20km以内に制限される。このためメイン道路も狭められ、その分を自転車専用ロードに改修した(カバー写真は、セント・アントニー地区の自転車専用ロードと駐輪場)。

車の進入を禁じた道路やかつての駐車場は、緑化されベンチが置かれ、子どもが遊んだり市民がくつろいだりするスペースに変貌。かつての幅広の四車線道路は地元住人のコミュニティ広場となった。私が訪れた時は住民によるガレージセールのような市が開かれていた。

ブロック内のNO2、騒音、気温、人流などは細かくモニタリングされており、市が一元管理している。車の排除で排気ガス(NO2)と騒音レベルが低下しただけでなく、ブロック内を自力で移動する運動効果から健康増進が図られる。また、緑化との相乗効果で、都市特有の気温上昇を最大2oC程度抑制できることも算定されている。スマートシティ化全ての効果を合算すると、バルセロナの成人住民の平均寿命は200日程度延び、経済効果は17億ユーロとの試算だ。

バルセロナのスマートシティの取組みは、「車中心の街から、より人に相応しい住環境と地域コミュニティを取り戻す」市長の決断とリーダーシップが原動力となっている。一方、「何がスマートか?」を決めるのは、あくまで地域住民だ。「エリアごとのニーズを知り、ニーズに合わせて取組みを調整していくことが重要。それには多くの人の声に耳を傾ける必要がある」とは、市情報局ディレクターのジョルディ・シレラ氏。

日本の戦後の街づくりはアメリカからの影響が大きい。狭い国土でありならが、モータリゼーションの名のもとに車を持つ生活スタイルを追求してきた。政治的思惑から大型駐車場を備えたアメリカ流郊外型大規模店舗を受け入れたことから、地方ではかつての駅前を中心とする商店街の多くはシャッター街と化し、今や地域コミュニティは瀕死の状態だ。

他方、欧州では人口30万人規模の都市でも活気に溢れる街が多い。バルセロナのスマートシティの取組みから、日本の街づくりは欧州から学ぶことが多いと改めて感じた。現在全国各地で実証実験が行われている日本のスマートシティ構想、今後の行方に注目したい。


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