最近の日本のTVコマーシャルは、ビールと尿漏れパットと転職サービスで華やかだ。中でも転職サポートビジネスはこれまでにも増して活況を呈している。一説によると「新卒社員の約半数が転職サイトに登録済み」とのことだ。
そんなことから、入社早々に社員が辞める現象に「時代が変わり、仕方がない」と諦め気味の経営者もいるだろう。しかし、ここは安易に流れてはならない。私の知る限り「辞めない会社」は、本当に社員が辞めない。
実は辞めない会社には、辞めないだけの明らかな理由がある。給与、オフィス環境、リモートワーク、残業規制、有給休暇・・どれも大事だ。しかし、これらは必要条件であって、これだけでは十分とは言えない。必要にして十分な条件は、社員が「会社に行きたい」と思えることだ。
「この世にそんな会社があるのか?!」と思ったら、あなたの職場はかなり病んでいる。「辞めない会社は、社員が毎朝会社に行きたいと思っている」これが真実だ。では、なぜ会社に行きたいのか? 個々に特有な事情は別として、経営の立場からは職場の3つの基本をチェックしたい。「裁量を与える」、「支援する」、「承認する」だ。説明したい。
「裁量を与える」:人は、言われたことだけをやっていても、本気になれない。入社後一定期間を過ぎて仕事に慣れてきたら、徐々に任せる範囲を広げることだ。任せられた仕事には責任が生じ、自分なりにそれを果たそうとする。自らの責任で行ったことが「人の役に立っている」と実感できれば、仕事は充実し、自己肯定感も高まるだろう。この積み重ねこそが、社会で役割を果たし、会社生活を快活に送る基本だ。
「支援する」:裁量を与えられても、直ぐには上手く対処できないこともあるだろう。これには周囲からの適切なサポートが欠かせない。職場ではいかなる社員も孤立させてはならない。必要な時に互いに支え合えることが大事だ。自分ではどうすることも出来ず窮地に追い込まれた時、職場の仲間に助けられた経験がある人もいるだろう。特に上司は、このためにあると言っても過言ではない。
「承認する」:メンバーが物事を成し遂げたら、周囲がそれを認め、歓びを共にすることが大事だ。その点から、部門に降りかかった難局を乗り越えた時や、大事な受注を勝ち取った時などに職場全体で行う祝福イベントには意味がある。最近は「褒める」ことが推奨されがちだが、必ずしも無理に褒める必要はないと思う。先ずはメンバーの行為とその存在を「認める」ことだ。周囲からの承認が得られれば、職場は心地良い居場所となり、さらなる活力の源泉となるだろう。
職場での「裁量を与える」、「支援する」、「承認する」を通して、社員は「自分が人の役に立ち、必要なサポートを受けながら、自らも成長している実感を持つ」。辞めない会社は、この基本モードを大事にしている。
この対局が「指示されるだけで、サポートされず、無関心に置かれる」ことだ。職場が業績目標の達成だけに汲々としていると、社員の心に気が向かなくなる。そうなると、一時的には好業績を上げても、決して長続きはしない。「業績は社員の力の結集でなせるもの」だからだ。
人が辞めて行くことに鈍感になった時点で、企業は低落へと向かう。経営トップには、「人が辞める理由を、世の風潮と転職エイジェントのせいにしない」気構えが必要だ。
(関連留考録)M4 あなたの部下は育っていますか?