M0 本気で社会を生き抜く力、それが経営力



経営塾に参加する中堅社員の人たちの中には、「経営」という言葉が当初しっくりこない、肚に落ちないと感じる人が一定数いる。「経営」というと、社長を始めとする企業の役員レベルの専任事項で、それ以外の社員には縁遠いものと捉える人も多い。一般に、社員には経営者の仕事が見えにくく、経営に必要な力もイメージが掴みにくいことが一因と思われる。


弘下村塾では、経営を「人を先導して社会に役立つ事を成す営み」とし、経営力を「①課題を特定する力、②解を示す力、③人を率いて結果を出す力」の「3つの力かけ算」と定義している。足し算ではなくかけ算なのは、3つのうちどれか1つがゼロなら、いくら他の力があってもゼロとなるからだ。


こう捉えると、経営実践に必要なスキルとマインドの具体的なイメージが湧きやすい。何を学ぶべきかもより鮮明になる。また、経営力が社長や役員に限らず、グループ長や課長、部長など、組織(や社会)を率いる全ての人に必要なものであることもハッキリするだろう。3つの力を説明したい。


「課題を特定する力」とは、平時にあっても「このままでは危うい!」と潜在的、かつ本質的な課題を指摘し、改革の必要性を唱える力のことだ。現状観察力、あるべき姿の構想力、建設的な批判精神、より良い社会(職場)を望む思いの強さがこの力の源となる。集団が健全に維持・発展するには、メンバーが気づかない潜在的な課題を指摘し、周囲に警鐘を鳴らすリーダーが要る。


「解を示す力」とは、集団の行く先を示す力のことだ。全ての経営課題の解答を、リーダー自身が捻り出す必要はない。事実を検証し、関係者の意見や提案を吟味した上で、多くのメンバーが納得する「意思決定が出来る」ことが大事だ。


これには情報収集力、他者理解力、仮説思考力、問題の根っこに切り込む論理展開力、決断に際しての自己客観視力 / 内省力が求められる。経営課題は、数学と異なり、唯一の正解があるわけではない。どの案にも良い点もあれば不都合な点もあるのが常ゆえ、そのような状況下でも自らの立ち位置を定める力と、メンバーの理解と共感を得るためのコミュニケーション力が欠かせない。


「人を率いて結果を出す力」は、示した解(目標)に向かって関係者の力を結集し、結果が出るまでやり切る力のことである。計画立案力、ファシリテーション力、メンバー育成力、組織求心力に加え、遭遇する種々の障害を乗り越えて「必ずやり切る!」信念(パッション)が問われる。私自身の経験からは、経営の失敗はこの力が不十分なゆえに起こることが圧倒的に多いと感じる。


こう捉えると、経営には途方もない力量が必要と思うかもしれない。確かに一朝一夕に成せるものではないだろう。しかし、より良い社会(職場)を目指して率先して行動を起こし、自らも人としての成長を続けるためには、これらの力を少しでも多く、かつ包括的に身につけることが肝要だ。これこそが「本気で社会を生き抜くために必要な力」であり、人生を豊かに生きる原動力とも言える。(弘下村塾では、経営力をさらに 145 のスキルと 86 のマインドセットに分解してトレーニングを積む。)


真に自立した社会人とは、自らの利のみに捕らわれることなく、集団(他者)に対しての責任を果たす気概と力量を持つ人のことだ。このような人がいるからこそ、社会は回る。「経営」という言葉への先入観に捕らわれず、自分のためにも、共に行動する仲間のためにも「本気で社会を生き抜く力」を鍛えたい。