計画は紙の上では完璧なのに、現場が動かない。企業の中で、こうした場面は決して珍しくない。日本企業では、経営企画部門が事業計画や戦略を立て、現場の事業部門がそれを実行するという分業が一般的になっている。1960年代以降、多くの大企業に経営企画室が設けられ、さらに80年代の「企業戦略ブーム」を経て、この体制は広く定着した。
しかし私には、この仕組みが必ずしも事業の実行力を高めてきたとは思えない。むしろ、計画と実行が分断されることで、現場の力を弱めてしまう場合も少なくないように感じている。
事業の成否を決めるのは、計画書の出来栄えよりも、それを実行する人たちの理解と意欲である。人は、自分が十分に納得していない方針を、長くやり続けることを得意としない。どれほど整った計画でも、現場が肚落ちしていなければ真の実行力は伴わない。
さらに実行段階では、往々にして予想外の事態が起こり得る。市場環境の変化、顧客の思わぬ反応、現場事情による制約の付加などである。こうした状況に対応するためには、計画を作る段階で現場の知識や経験を十分に織り込んでおく必要がある。
かつて関わった事業で、いったん企画部門が立てた新規ビジネス開発の計画粗案を現場の責任者に見直してもらったことがあった。その後は企画部門は外部の関連情報の提供とファシリテーションに徹して、最終計画立案の主体はあくまで実行を担う現場責任者とした。
すると、企画側だけでは見えていなかった問題が次々と出てきた。顧客の実際の反応、日々の実業務の流れ、実行にあたり現場で足かせとなる障害などである。原案では取り上げなかった新たなビジネス・セグメントも見えてきた。結果として、当初考えていた計画は大きく修正された。
しかしこれらの修正もさることながら、振り返ってみれば、現場責任者のかかわりこそが重要だった。議論に参加した現場のメンバーは、その計画を「上から与えられたもの」ではなく、「自分たちで作ったもの」として受け止めていた。実行段階で予想外の問題もいくつか起きたが、現場の工夫で計画を最後までやり抜いた。
その時、私は改めて「やり切る力は、実行段階ではなく、計画段階で生まれる」ことを実感した。戦略とは、文書の中に存在するものではない。人の中に生まれるものである。
経営企画部門が計画を作り、それを現場に下ろす現行の運用だと、このバトンパスが上手く行かない。経営企画部門は少人数で構成されることも多く、経営陣の掲げるビジョンと業績目標をつなぐストーリー作りに追われがちである。その結果、現場の実態からかけ離れた机上の計画になってしまうことも少なくない。
本来、経営企画部門の役割は計画を作ることではない。経営リーダーの参謀として、必要な情報を集め、分析し、議論を整理することだ。計画の主体は、トップを含め、あくまで事業の実行部隊であるべきだ。
さらに言えば、計画を実行するのは組織ではない。人である。だからこそ、計画を作るプロセスに現場のキーマンが関わることが重要になる。計画づくりの議論そのものが、関係者の理解を深め、意欲を高め、実行力を生み出していくからだ。
計画は、未来を描くための作業ではない。人を行動に駆り立てるためのプロセスである。だからこそ、もう一度この要諦を心に刻みたい――「やり切る力は、計画段階で生まれる。」
(関連留考録)M2 その事業計画に心が躍りますか?

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