トヨタ自動車の100%子会社ダイハツ工業で昨年相次いで不正が発覚した。いずれも製品の試験にかかわるもので、12月に発覚した不正は車両認証試験と報じられている。「トヨタまでもがこうなのか・・」との失望感が、日本社会全体を暗くしている。日本企業はいったいどうなっているのだろうか。
企業倫理の堅持は弘下村塾の重要テーマであり、本留考録でもこれまでに「トップ自身が自社事業に対する道徳哲学を持つ」こと、「職場の過剰なパワー(階級)意識を排除する」ことなどを記した。今回はこれらに加えて、業務フローでの「不正を起こさない仕組みづくり」について記したい。
「不正を起こさない仕組みづくり」とは、社員が自分の担当業務で単独では不正行為が出来ないよう「職務や職権を分断する」ことだ。これをSOD(Segregation of Duties:職務の分離)と言い、多国籍企業の多くが、SODをコストに優先するコンセプトと位置づけている。
例えば、資材の発注書を作成する人が、同時にその資材の入荷検品業務を担当していれば、本人の職務範囲の中に業務改ざんの潜在的リスクが内在化される。社員をこのような環境下に置かないよう、この2つの業務は担当を分けるのが鉄則だ。
また、日本企業ではQC(Quality
Control:品質管理)とQA(Quality
Assurance:品質保証)を混同したり、同一部門内に置いたりする職場を見かけるが、これも潜在的な不正の芽となりうる。
元来、QCとは製造工程で品質を確保する(作り上げる)職務であり、QAは出来上がった製品の品質をチェックし認証する(合否を下す)職務である。この役割分担に基づけば、2つ職務は別部門とすべきだ。特にQAは独立性の高い監査部門ゆえ、通常は経営トップや工場長直下に置く。かつ、経営トップや工場長でさえも、QA責任者が基準に照らして「NO」と言えば、製品の出荷はできないのが原則だ。
SOD(Segregation of Duties:職務の分離)の導入には、DOA(Delegation of Authority:権限の移譲)が明確になっていることが大前提だ。日本企業の場合、各職責の責任と権限規定の運用があいまいな職場が多い。そのような職場では、関係者が違和感を持ちながらも、それと知って集団で不正行為に加担してしまうケースが散見される。
外資系企業が重視するSODは「人の性悪説に立っている」ように思うかも知れない。しかし、決してそうではない。社内で何らかの不正が発覚した時、SODで職務が適切に分離されていれば、担当者に不要な疑義がかることはない。人は誰しも過ちを犯す可能性を否定できない現実を踏まえ、「社員を守る仕組み」として機能する。
職場の倫理基盤の確立には、トップを始めとする企業人の「精神的素養の深耕」に加え、組織や仕組みなどの「事業システムによる牽制」のソフト・ハード両面からのアプローチを必要とする。
(関連留考録)
ー事業活動はミッションドリブン
-企業不正事の根っこにあるもの