大小さまざまな石をバケツの中に入れる際、小さな石から先に入れると、後になって大きな石が入らないことがある。逆に、先に大きな石を入れ、その隙間に小さな石を滑り込ませれば、すべての石を入れることができる。仕事も同様で、こまごました雑事に翻弄されていると、重要な仕事がいつまでも手つかずに残りがちだ。すべてを上手く処理しようと思えば、「大きな石から先に入れる」のが鉄則である。
とはいえ、日常業務には職種によらず何かと些事が多い。実際の現場ではつい“小さな石”に手を伸ばしてしまう。例えば、
- メール返信やチャット対応に追われて、本来取り組むべき企画が進まない:Slack や Teams が頻繁に鳴り、メンション対応を優先しているうちに、本来最も重要な企画書や戦略立案の時間が削られる。
- プレゼン準備の細部にこだわりすぎて、本質論が詰め切れない:資料のフォントや図表の整形に時間を取られ、肝心の意思決定に必要な論点の整理が不十分なまま、スライドの体裁だけが整う。
- クレーム対応に追われるだけで、抜本的な品質改善に着手できない:顕在化した問題の火消しに奔走し、本来取り組むべき抜本的な再発防止策や製品開発に手が割けない。
― 目先の効率と収益重視から、間違いが少ないベテラン社員に仕事をまかせるので、若手社員が育たない:コスト削減から若手を現場に同行させる機会も少なく、人材育成が置き去りになる。
ルーチン化した小さな作業は、比較的着手しやすく、それなりに「やった感」を与えてくれる。だからこそ、気づくと一日の大半が小さな石で埋まり、本来着手すべき企画や戦略立案、開発、部下育成といった“大きな石”が後回しになる。
では、どうすれば「大きな石から先に入れる」ことができるのか。ポイントは三つ。
①自分にとっての“大きな石”を明確にする:まず、自分にとって何が最も重要かを客観的に判断する。それには、(以前留考録にも記した)「緊急度・重要度マトリックス」を利用するといい。当然ながら、緊急な仕事が必ずしも重要な仕事とは限らない。緊急度に惑わされることなく、自分が着手すべき最重要項目を明確にすることだ。これを毎日の"TO DO リスト”に入れ込む。
②“小さな石”を後回しにする勇気を持つ:メールやチャットの通知を(例えば)午前10時半までは切る。資料の細部にはこだわらない。頼める仕事は他人に任せる。若手の頃は「今日できる仕事は、今日中に処理すべき」と習ったかもしれない。しかし、経営リーダーにとっては「今日しなくても問題ない仕事は明日以降に延ばしてでも、本当に重要な仕事に今日着手する」ことの方が大事だ。
③“大きな石”のための『ブロック時間』を設定する:30分でも1時間でもよい。Outlook カレンダーのような社内イントラナネット上の予定表に(「会議」などとして)「ブロック時間」を設定し、外からの割り込みを排除し、自分が優先すべきことへの時間を確保する。例えば、毎週金曜日の午後4時から1時間は必ずブロックし、自分が重要と考える企画立案や部下とのワン・オン・ワン・ミーティングにあてるなどの策を講じる。
些事で大事を損なうことは、職場以外でも起きる。たとえば、家を出る前に「少しだけ」と思って部屋を片づけ始め、結果的に出発時間が遅れてしまう。待ち合わせ時刻までに余裕があるのでウィンドウショッピングをして、結局時間に遅れる。あるいは、スマホの通知に反射的に反応し、家族との大事な会話を聞き漏らす。どれも小さな石が大きな石を押し出してしまう典型例である。
仕事でも日常生活でも、入れる順番を間違えると大事なものが入らない。「大きな石から先に入れる」――この単純な原則の実践こそが、将来振り返った時、納得の行く人生だったと思えるか否かの分水嶺となる。心したい。

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